中村 蒼 Marvel Stone Glade を立ち上げたのは2014年、京都での修業を終えて東京に戻った直後のことでした。京都では老舗の造園会社に5年間勤め、枯山水の石組みから茶庭の設計まで、伝統的な日本庭園の技法を体で覚えました。ただ、帰京して気づいたのは、東京の住宅街に残る庭の多くが、手入れを諦められているという現実でした。石は苔に埋もれ、植栽は枯れ、庭が「負債」になっている家を何軒も見ました。そこに、やるべき仕事があると思いました。
最初の数年は、世田谷区と目黒区を中心に、個人邸宅の小さなリノベーションを一件一件こなしました。転機になったのは2018年の秋、神奈川県葉山のリゾートホテルから中庭の全面改修を依頼されたときです。予算も規模も、それまでとは桁が違いました。備前石を岡山の採石場まで直接買い付けに行き、地元の左官職人と組んで、3ヶ月かけて仕上げました。完成後、そのホテルのオーナーが「庭ができてから、宿泊客の滞在時間が変わった」と言ってくれた言葉は、今も仕事の基準になっています。
現在は東京・世田谷を拠点に、関東・関西・九州の案件を手がけています。スタッフは設計2名、施工職人3名の小さなチームです。大きくするつもりはありません。設計者が現場に立ち、石を自分の手で動かせる規模を守ることが、私たちの庭の質を保つ唯一の方法だと思っています。年間の新規施工は10件前後。それ以上は受けません。庭は、つくった後の時間のほうが長い。だから、長く関われる数だけやる、というのが今のスタンスです。
中村 蒼1981年、東京・世田谷生まれ。大学で環境デザインを学んだ後、京都の老舗造園会社「山城緑苑」に入社し、5年間にわたり枯山水・茶庭・露地の設計と施工に携わった。2014年に東京へ戻り、Marvel Stone Gladeを設立。岡山や福島の採石場に自ら足を運ぶことを習慣とし、石の産地と質感にこだわった庭づくりを続けている。休日は早朝に世田谷公園を歩き、季節ごとの植生の変化を記録するのが日課。「庭は完成した瞬間が始まりで、10年後に本当の顔を見せる」が口癖。